歴史をつなぐ—TEKKO復元プロジェクト—
共有ポイント
1リピートのデザインがあれば壁紙の特注ができる!
- 小ロットからの生産が可能!
発表者
テシード事業部 江面 正明(えづら まさあき)
事例を通してノウハウの共有と営業プロセスの可視化を目指す「ベストプラクティス」。
第30回目はテシード事業部の江面さんに「壁紙復元プロジェクト」についてお話を伺いました。今はもう製造できない壁紙をどのように復元していったのか、一連の流れをご紹介いただきました。
― 今回、江面さんには「TEKKO復元プロジェクト」についてお話いただきます。はじめに、物件の概要について教えていただけますか。
江面)(以下、江)旧渋沢邸の移築・復原プロジェクトを清水建設が担当。建設当時の資料に、TEKKOの壁紙がスペックされていたため、テシードに問い合わせをいただきました。現地に再生産可能かを問い合わせたところ、製造に使用していた版がすでになく、さらにヨーロッパ内で、壁紙製造で使用していた原料の一部が使用禁止になり、TEKKOは全商品生産不可でした。そこで、なんとか日本で復元できないかとエリモ工業とファインアートにご協力いただき、復元を試みた物件です。
TEKKOとは *現在は廃業
1885年 TROUGOTT ENGEL氏が撥水壁紙を完成させる
1900年 TROUGOTT ENGEL氏が他2名とドイツのバーゼルにSALUBRA社を設立
1975年 スイスのFORBOグループの傘下に入り、社名をFORBO Grenzachに変更
2003年 EMILIANA PARATI社に買収される
2022年 TEKKO全品廃番
TEKKOは、スイスとドイツを拠点とするSALUBRA社(現:EMILIANA PARATI)のブランド。最後の仕上げに蜜蝋を施し、世界初の撥水壁紙としてその名を轟かせてきました。2022年に原料の一部が使用できなくなり、すべての商品が廃番。140年余り続いた製造が終了になるというニュースは大変ショックなものでした。
TEKKOの壁紙は、世界的に有名なスイスの建築家兼デザイナーのLE CORBUSIER氏や、イタリアのFRANCESCO MENNADINI氏のデザイン監修により、「世界で最もステータスのある壁紙」として多くの高名な建築家に長い間愛好されてきました。世界中の一流ホテル、各国の公営建物、歴史的文化施設(日本では三井倶楽部、旧岩崎邸、交詢社ビル、旧前田公爵邸などの主に19世紀後半~20世紀前半にかけての洋館)に使用され続けています。
― 復元はどのような手順で行われていったのでしょうか。
江)下記の手順に沿って復元を進めていきました。
①デザイン起こし
まずは壁紙の断片をもとにデザインを起こしていきます。今回はファインアートにご協力いただき、断片のスキャンデータをつなぎ合わせて、1リピートのデザインを見つけ出していきました。
*社外秘
②グラフィックデータの作成
だいたいのデザインの確認ができたら、デザイナーに細部をつなぎ合わせてもらい、1リピート分のグラフィックデータを作成します。
各断片のグラフィックデータ *社外秘
*書き起こしに使用したデザイン詳細資料はこちら(社外秘)
③原稿起こし
グラフィックデータが出来たら、いよいよエリモ工業で原稿(※1)の製作。刷った時にエンボスなどのテクスチャーが上手く出るよう、凹凸なども原稿に落とし込みます。
※1:シルクスクリーンを作るための版
各断片のグラフィックデータ *社外秘
④試作
調色の様子
実物に近づけるため、調色を重ねていきます。調色の際は清水建設の担当者も立ち会い、インクの配合、柄の重ね方など何度も工夫を凝らしました。写真はベース色も柄色もすべて異なるサンプル。デザインの深みを出すために3つの版を重ねて印刷しているものです。
⑤試験貼り
試作が完成したら次は試験張り。見た目だけでなく張り方も当時を再現していくにあたり、柄合わせの確認はもちろん、施工方法の確認も行います。復元前の壁紙は、重ね張りで施工されたものであったため、今回のものも重ね張りで施工して問題ないか、細かく見ていきました。
⑤壁紙製造
*PDFはこちら(社外秘)
試験張りが通ればいよいよ本番。まずはベースとなる壁紙を台に固定します。デリケートな素材であるため、シワにならないように固定する必要があり、印刷の際にインクの水分を含んで収縮しないように土台に仮張りをします。
インクを入れ、手作業でプリントしていきます。左から順に1リピートずつ飛ばしながら、一気に進めていきます(インクが刷り合ってしまうのを防ぐため)。最終地点まで来たら、スタート地点に戻り、1巡目で版をした間を埋めていく。この作業を各版行っていきます。ぴったりと柄が合う様子は圧巻です。
1
1巡目の様子
2巡目の様子
2版目を重ねた様子
当時の壁紙を再現し、かつ商品としての品質を保持するために、何度も試行錯誤して工夫を重ねてもらいました。壁紙として販売するには、はじめから最後まで色や印刷の風合いなどの商品の品質保持が必要。少しでもミスをしてしまうと柄が合わなくなってしまう本当に緻密な作業でした。
版にインクが詰まらないようにすぐに洗い流し、乾燥させます。版に使用されているこのフレーム、現在は製造者がおらず大切に保存して使い回していて、大変貴重なものです。ものづくりには多くの企業が関わっていますが、後継ぎ問題など、さまざまな理由で製造を終了してしまう企業も多いようです。歴史や伝統が途絶えてしまうのはとても残念。うまく継承していける仕組みを作りたいものです。
そして、こちらが実際の施工写真になります。今はまだ一般公開はされておらず、ホームページからしか見ることが出来ません。
断片Bの施工写真
近々一般公開予定なので、お時間のある方はぜひ足を運んでみてください。今はもうないデザインをこのように再現できるのはハンドプリントの強みですね。
― 今回のような復元や特注壁紙では、どんなデザインでも可能なのでしょうか?
江)1リピート分のデザインが用意できれば基本的にはどんなものでも可能ですが、ストライプ柄はスクリーンプリントの手法には向きません。ちなみに、ロールや版を使用したプリントの場合は製作できるリピートに限りがありますが、スクリーンプリントの場合は、リピートに限りがなく、大きなリピートの壁紙の製作ができるのがメリットです。また、最小ロットは特に設けられていないので、小ロットからの対応も可能です。
― 皆へのメッセージをお願いします。
江)テシードでは、今までいくつも特注壁紙を受けてきました。どんなも案件でもご協力できるかと思いますので、ぜひ壁紙の特注案件についてお声かけください!生地やラグについてはまだ勉強中ですが、たくさん学びたいと思っています。ぜひいろいろ教えてください!一緒に素敵な空間づくりを目指しましょう。
また、EMILIANAからTEKKOの壁紙を復元した「NEW TEKKO」コレクションも発売されていますのでぜひSRでご覧ください。
部署名: テシード事業部
氏 名: 江面 正明(えづら まさあき)
入社日: 2024年10月(テシード入社1993年)
― テシードへの入社経緯をお聞かせいただけますか?
江)大学時代には体育教師を目指していましたが、残念ながら採用試験に落ちてしまい、就職先に迷っていたところ先輩からの紹介で株式会社キロニーに入社。主に施工店から材工共で受注する部署で勤務していました。
その頃、卸専門の輸入商社の義輝が、ハウスメーカーや設計事務所への営業を強化するためテシードを別会社で設立し、営業活動に力を入れ始めた頃に誘いを受け、輸入壁紙の話を聞かせてもらい商品そのものと成長の可能性に興味を持ち入社しました。
― いまはどんなお客様を担当されていますか?
江)特定の顧客を担当しているわけではありませんが、新規開拓や顧客対応、別注対応、国内製造メーカーとのコミュニケーション、壁装協会との関わりを通じて、新たな販売方法、販売商品の拡大に取り組み、壁紙事業の拡大を通じて会社の成長と発展を目指して行きたいと思っています。
お客様について
客先名 | 清水建設 |
事業内容 |
建設事業、土木事業、海外建設事業、不動産開発事業、エンジニアリング事業、グリーンエネルギー開発事業、建物ライフサイクル事業 |
販売金額 | |
商品 |
別注壁紙 |
物件について
物件名 | 旧渋沢邸 |
納品年 | 2024年9月 |
商 品 |
ハンドスクリーンプリント別注壁紙 |
売 上 |
150万円 |